With HANDSOMUSE vol. 2
髪が教えてくれた、
「自分に飽きる」という、壁。
松本 千登世Chitose Matsumoto
1964年生まれ。美容エディター、ライター。
航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。
その後、エディター&ライター、フリーランスに。美容エッセイに定評があり、数多くの女性誌で連載中。『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』(講談社刊)ほか、著書多数。
髪が教えてくれた、
「自分に飽きる」という、壁。
10年ぶり? いや15年ぶりでしょうか? 思い切って、髪を切りました。
いや、じつは「思い切った」のは自分だけで、残念ながら、まわりには気づかれないくらいの変化だったのだけれど。
20代、30代と、ショートヘアに憧れてトライした経験はあるものの、今までを振り返ってみると、総じてセミロングとロングを行ったり来たり。ずっとそうしていたのには、理由がありました。
生まれつき、多くて太くて硬くて、しかも広がりやすく、扱いづらい髪。年齢を重ねて、以前よりはボリュームが減ったとはいえ、誰より何よりコンプレックスでした。だから、長くして物理的な「重み」を作ることで、シルエットをできるだけタイトに、コンパクトにしなくちゃと、ロングやセミロングを自分に課していたのです。
いつのころからか、軽やかになりたい、シンプルでありたいという漠然とした思いを抱えていたにもかかわらず……。
ところが、実際、一歩を踏み出してみると……?
「ああ、もっと早く切ればよかった」。
髪を切ったことで、逆に、がんじがらめにされていた「何か」のために、いつのまにか自分にわくわくしなくなっていたことに気づかされました。
ここで言う何かとは、ほかの誰でもない、自らが創り出した「こうじゃなくちゃ」という枠。そして知らず知らずのうちにできあがっていた、自分に飽きるという、大人ならではの壁。
新しい髪がその壁を乗り越えさせ、自分を解放する快感を教えてくれたのです。
自分の中身と見た目をつなぐ、
それがジュエリーの理想形。
何を着よう? 靴は? バッグは? 口紅は?
髪を切ったその日は、心底わくわくして、夜も眠れないほどでした。その興奮は今もじわじわと続いています。
思えば、髪は、肌や顔、体の一部であり、服やメイクの一部であり。つまり、中身と見た目をつないで、「私」を語り出す特別なものなのだと思います。
こんなにも興奮しているのは、今の自分らしさとシンクロする髪に出会えたからなのかもしれない。そう、髪にわくわくすること=自分にわくわくすること。毎日に、もっと言えば人生にわくわくすること……。改めてそう確信したのです。
ジュエリーも同じなのではないでしょうか? いつでもどこでもそばにいて、ときに、肌になり、ときに服になりながら、私を語り出すものだから。
日常にさらりとつけると、シンプルでシックで、華奢で繊細で、まるで肌の一部になりすますよう。ところが、非日常の光を浴びるシーンに纏うと、途端に、思わずはっとさせられる、圧倒的なオーラを放つ。凛とした静けさと、目を引く存在感と。その両面を持ち合わせたジュエリーは、選ぶ人のパーソナリティに寄り添い、気分やシーンに合わせて、そのたび、艶と華を与えてくれる。そうして、日々、新しい顔を見せ、自分をわくわくさせてくれる……。
もし、枠を作っているなら。もし、壁を感じているなら。大人は、今こそ、出会うべきときだと思うのです。あなた自身を語り出す、あなただけのジュエリーに。
ジュエリーの向こう側にある
女性像の奥行き。
そういえば、と思い出した話があります。
以前、ある女性誌のファッションページで、モデルの女性に5つのジュエリーをつけてもらったときのこと。
それは、エレガントなネックレスだったり、クールなピアスだったり、アヴァンギャルドなリングだったり。彼女は、「5人の女を演じ分けるようで、わくわくさせられる」と興奮して、ジュエリーの豊かな個性を見事に表現してくれました。こんな言葉を添えて。
「あえて、ジュエリーの言うことを聞かない『女性』を演じたら、面白いなって思ったの」
ジュエリーが持つイメージ通りというよりは、ジュエリーのイメージをいい意味で裏切る女性のほうが、「その人」に奥行きが生まれるのじゃないか。
例えば、エレガントなネックレスに、マスキュリンな印象を。例えば、アヴァンギャルドなリングに、センシュアルな表情を。そうして見えてくる女性像は、より多面的で、より魅力的……。本質を突いた捉え方に、はっとさせられたのです。
服やメイクとはまた違う、「向こう側」を想像させるのが、ジュエリー。自分の外面と内面の狭間にあってその人を投影するのが、ジュエリー。
経験を重ねた大人の「複雑さ」を丸ごと受け入れ、唯一無二の魅力に変える包容力もまた、ジュエリーの醍醐味に違いありません。