With HANDSOMUSE vol. 3
メイクは日常か、非日常か?
忘れていたその「真髄」。
松本 千登世Chitose Matsumoto
1964年生まれ。美容エディター、ライター。
航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。
その後、エディター&ライター、フリーランスに。美容エッセイに定評があり、数多くの女性誌で連載中。『もう一度大人磨き 綺麗を開く毎日のレッスン76』(講談社刊)ほか、著書多数。
メイクは日常か、非日常か?
忘れていたその「真髄」。
「ねえ、ドラマティックなメイクをして、一緒にどこかへ出かけない?」
何気ないひと言に、こんなにもどきどき、わくわくさせられるなんて、想像だにしませんでした。
じつはこれ、敬愛するメイクアップ アーティストの女性から放たれた言葉。
パーティシーズンに向けて、今シーズンのトレンドでもある「インテンス・メイク」を提案するべく、ある女性誌で一緒に企画を進めている最中、思いがけず飛び出した言葉でした。
海外での経験が長い彼女は、「大人」ならではの美しさを誰よりよく知る人。どこか「若さ」や「可愛さ」に心が向きがちな日本女性の価値観や美意識を根本から揺り動かすような、シックでゴージャスなメイクアップに、いつも溜め息が出ます。
卓越したセンスに緻密で独創的なテクニック、それでいてチャーミングな人柄。そして、何より女性を美しくしたいという熱い思いに、一緒に仕事をするたび、刺激を受けるのです。
その企画も、まさにそう。彼女の色選びや色合わせは、とても新鮮で、刺激的でした。
ふと思いました。彼女の言葉に興奮したのは……? 知らぬ間にメイクが「日常」のものになりすぎていたことに気づかされたからなのじゃないか。
その色は、私の肌に合っている? その色は、年齢や仕事にふさわしい? その色は、コンプレックスやエイジングサインをカモフラージュしてくれるだろうか……?
それに加えて、時代のムードは、ありのまま、エフォートレスこそ、理想形。何より欲しいのは、抜け感やこなれ感……。
つまりは、身だしなみや欠点カバーがメイクの主たる目的になり、しかも、できるだけ力を抜くことが、お洒落である条件になって……。そのうちメイクが、ときに義務になり、次第に惰性になり。結果、日々のメイクに、いや、自分の顔にどきどき、わくわくしなくなっていた……。そんな事実に気づかせてくれた気がしたのです。
もっと、自由に、もっと大胆に、メイクの「非日常」を楽しみたい。「似合う」とか「なじむ」とかいう安心感を大きく超えて、ドラマティックな「顔」の高揚感を楽しみたい。
「まるで、私じゃないみたい」。その興奮がもたらすのは、まったく新しい自分、新しい顔に違いないのだから。
ジュエリーを選ぶという興奮が
「私」にもたらすこと。
まるで、私じゃないみたいな顔で、どこかへ出かけるとしたら……?
ドレスはどうしよう? 自分らしく、黒、にしようかな。シンプルで上質で、洗練されたものを選びたい。
ジュエリーはどうしよう? シンプルなブラックドレスに「艶」と「華」を加える、そのものに圧倒的な存在感のあるものがいいな。
あれっ、ドレスとジュエリーの関係は、肌とメイクの関係に似ているのかも? ドレスを肌として、ジュエリーをメイクとして捉えると、なんだか楽しいじゃない!?
想像がとめどなく広がって、もう、それだけで自分の表情や姿勢が変わっていくような気がしました。
人生の節目、こんなふうに思い至ったのも、きっと偶然じゃない。もっと大人の、もっと新しい自分を見つけるためのジュエリーを手に入れるとき……?
そして今。
じつはここだけの話、クリスマスを前に届くというジュエリーを、心待ちにしているところなのです。
非日常と日常の輝きが溶け合う。
大人がもっと楽しくなる。
じつは私、冒頭の「誘い」に対して、「えーっ、でもさあ、行くところがなくない?」とちょっと否定的な反応をしました。本当は、心の底から嬉しかったのに。
すると彼女は、にこにこと笑って、「どこだっていいじゃない?」
カジュアルなイタリアンだっていい、シャンパンで乾杯するだけだっていい。そう、目的がないのが、いいんじゃない……、と言って。
「インテンス・メイク」も「ドレスアップ」も、自分のために。TPOを超えた、高揚感のために。
非日常を日常の延長線上のように楽しみたいと思うのです。特別な非日常と普通の日常が溶け合って初めて輝きを放つ。日常が非日常を輝かせ、非日常が日常を輝かせ、輝きのループが生まれる……。またも気づかされた気がしました。
まだ、具体的にはなっていない、私たちのパーティ。あのジュエリーをつけて、どんなメイクをしようか、どんなドレスを着ようか、そして、誰を誘おうか、どこに行こうか。
なんて、大人って楽しいの! そう思うことが、素敵な大人への進化につながるはず。そんな気がしてならないのです。