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With HANDSOMUSE vol. 20 ― パティシエ 加藤峰子さん 公開中

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With HANDSOMUSE vol. 20

人を幸せにする仕事で
誰かの役に立ちたい
― パティシエ 加藤峰子さん 後編

26.1.29

加藤峰子Mineko Kato

東京都生まれ。幼少期から海外生活を送り、デザイン、美術、現代アートやモノづくりに興味を持ち、食の分野からパン・お菓子の道を選び進む。「ブルガリ ホテル ミラノ」「オステリア・フランチェスカーナ」など、イタリアの名立たるミシュランスター獲得店にてペイストリーシェフを務める。 2018年より「ファロ」のシェフパティシエに就任。2024年「アジアのベストレストラン50」で「ベスト・ペイストリー・シェフ賞」を受賞。一般社団法人日本サステナブルレストラン協会理事も務める。

前編に続き、注目のパティシエ、加藤峰子さんにご登場いただきます。東京・銀座のイノベーティブイタリアンレストラン「FARO」のシェフパティシエとしてはもちろん、今年は「サロン・デュ・ショコラ 2026」にも参加されるなど、多方面で活躍されている加藤さん。後編では日本の食文化の未来を考え手掛けている和菓子ブランドのこと、日本の女性の働き方に関する活動など、社会的課題解決に向けた取り組みのお話を伺いました。おいしさ、美しさの先にある、新しい気づきとは?

私は日常から自分自身はもちろん、家族の健康を考えても、無農薬やオーガニックな食材を使います。農薬や肥料を使うことで、土地が痩せてしまうという環境問題も気になりますし、オーガニックな食材のほうが味覚的にも研ぎ澄まされる気がします。

日本みつばちのハチミツと、なかほら牧場のヨーグルトを使ったソース、バラのエキスなど、さまざまな味わいと食感を組み合わせた「蜂と花の和」。

だから私はつくるお菓子にも植物由来の素材を多く使っています。ローカロリーで軽やかに仕上がりますし、動物性素材でお菓子をつくることが、持続可能ではないような気がして。ただヴィーガンと謳っていないのは、私のなかの基準に添うものであれば動物性素材も使うからです。例えば、使わないと絶滅の可能性がある日本みつばちのハチミツ。それから牛の生態系を守る役目を担う山地酪農の特別な牛乳などは使うこともあります。生クリームは1リットルの牛乳から100mlくらいしかつくれないのですが、それ以外は廃棄すると思うとなかなか使いにくい。自分が市場にないものを開拓するパイオニアとして、お菓子を提案するのは楽しいしロマンがあります。だからこそ従来にない価値を持つ、新しいおいしさを提供したいと思っています。

繊細なデコレーションも加藤さんのお菓子の魅力。

取り組みのひとつに和菓子のプロジェクト「諸鈎(モロカギ)」があります。日本のお菓子は豆、葛、蕨など全部植物でできていることも美しいと感じ、とてもインスパイアされています。イタリアから日本に拠点を移した当初は、実は和菓子はあまり得意ではありませんでした。多くの外国人同様、豆が甘い味覚に馴染めなくて。ただオーガニックな食材を求めて、日本の地方に行く機会が増えるなか、昔ながらの旧街道で営む和菓子店に通うようになったことがきっかけでスタートしました。店の方々とコミュニケーションするうちに、尊敬の念が芽生え、私の感性でコラボレーションしたいと考えるようになったのです。

ほうじ茶と金木犀、カカオとオレンジ、2つの異なる食材のマリアージュが新鮮な和菓子「移り変わる景色のポリリズム」。「日本特有の美意識は海外へ伝えていくほうが、広がりが生まれるように思います」と加藤さん。

多くが人口1000人にも満たない過疎の町の老舗です。大納言小豆など希少な素材を使い、とても手間暇がかかっているのに、1点200円くらいの価格で販売されています。洋菓子が何千円で売られている時代に、なぜなのかととても驚きました。おそらく自分の代で途絶えてしまうから尊厳を守るために仕事をしていて、未来を見ることができないという状況なのです。

もともと和菓子店の成り立ちは江戸時代、参勤交代のお休み処としての役割。そこからの修業感覚が残っていることもあるのか、後継する次世代が不在の現状です。また今、20~30代のお母さんたちはケーキやマカロンで育った世代なので、和菓子に馴染みが薄い。和菓子は基本が砂糖と豆の味で、洋菓子に比べ味わいが単調。練り切りのおいしさを理解する人は少ないかもしれないです。

「諸鈎」のプロジェクトとして、大阪関西万博2025 関西館・和歌山ブースで和菓子を使ったプレゼンテーションを行いました。和歌山の魅力を伝える目的で、10ヶ月地元の6店舗とコラボレーションしたのです。2年半かけたプロジェクトだったので、和歌山には60回くらい出向いたと思います。和歌山は果物が充実しているんですよ。森を感じるコース仕立ての和菓子を提案しました。野生のスモモと山桃を煮詰めたフィリングを入れたお餅。それから求肥に柑橘や山椒などを効かせたり、練り切りにヒノキやバラ、ライムを香らせるなど、従来の和菓子にない組み合わせで、新鮮な味わいが好評だったようです。

香川県の「夢菓房たから」濱田浩二氏とコラボレーションした和菓子。カカオの奥行きのある味わいに、グリオットチェリーの華やかな酸味を効かせた「異国の森と赤い実のどら焼き」。

和菓子以外には環境関係の会社とチョコレートのプロデュースも行っています。私が人生の最後に食べたいものを聞かれたら「チョコレート」と答えるくらい、チョコレート好きです。ボリビアのアマゾンに生息する樹齢百年くらいの自生の原種木から採取する、野生のカカオ豆を使ったお菓子を提供しています。現地の方々が採集し、農学者が発酵を行い、日本のショコラティエがビーントゥーバーにしたもの。とてもピュアな味わいで雑味ゼロ。感覚を研ぎ澄ませていくと、自然の力を感じるようになります。

2024年に『Asia’s 50 Best Restaurant』にて「アジアのベスト・ペイストリー・シェフ賞」を受賞しました。アワードをいただいてから、アジア各国との交流も増えました。シェフとセッション、文化交流のプログラムや登壇も行います。タイやマレーシアなど好景気な新興国は、エネルギーに満ちています。輸入に頼らず、生産を行う国はパワーもあるので、食に対する興味も強く、オープンマインド。日本にはない食材もあるので、刺激になる旅が多いです。

『Asia’s 50 Best Restaurant』「アジアのベスト・ペイストリー・シェフ賞」の授賞式にて。

また社会的にも食のオピニオンとして発信する機会も増えたと思います。自分がつくるお菓子をクールだと思っていただくことで、おいしさとともに気づきが生まれ、小さなレボリューションが起こせたらいいなと。食は人の人生を変えることもできるドラマティックなものだと思います。

ファッションも同様で、長く使える上質なものを選ぶことが多いですね。量より質。トレーサビリティはもちろん、仕事の裏側が見えるものを手にします。18歳のときに買ってもらった靴をメンテナンスしながら今も履いています。ジュエリーもいいものを買えば一生どころか代々継承できます。人工的に描いたものではない自然に近い形は、不規則ななかに一つ一つの美しさがあります。食材も自然のままの不規則な形が美しいと感じます。

前編でご紹介したひと皿「日本の里山の恵~花のタルト~」の制作風景。美しいひと皿をとおして、日本の里山の未来を問いかける。

人間の美意識には伸びしろがあると聞きます。日常でも選択を繰り返していくうちに、センスも培われるそうです。人生経験をすればするほど、美の選択もより深くなる。好きなものを一瞬で選べる感性を養えるのではないでしょうか。だから創造に慣れてる人は、選ぶことをたくさんしてきた人だと思います。

日本で仕事をするようになって、意外だったのはヨーロッパに比べ、女性の働き方に課題がある点です。私はイタリアで子育てしながら仕事をしてきて、そこまで不自由を感じませんでした。子育て支援の給付金が手厚く、住み込みのシッターさんにサポートしてもらっていました。イタリアは国主導でシステムができています。日本の成功している40代の女性パティシエや料理人の多くは独身。食に限らず、学校の先生、医者など、現場で働く職業の多くは同じ問題を抱えているのではないでしょうか。まだ本当の意味で女性が活躍するためのベースが確立されていないように思います。

加藤さんが過ごしたイタリアの街並み。

次の時代を担うのは、しなやかさを持つ女性。上から下へトップダウンのピラミッド型のリーダーではなく、プロジェクトごとのリーダーがファシリテーターするぐらいの感覚が現代のリーダーシップとしてはいいと思います。自分のプロジェクトでも若い人に命令することは、ほとんどないんですよ。私を含め、全員で分担してプロジェクトを動かしています。

20才の子どもを持つ母親でもある加藤さん。環境に負担をかけない食を心がけ、心豊かに楽しく暮らしながら、地球や社会の美しさも守りたいと考えている。

日本の女性の働き方に関して、これから海外の方々の力も借りて、少しずつ変えていきたいと思っています。社会が変わるためには、みんなで団結する必要があります。2024年からスタートし女性パティシエの働き方を考える「Think Me」のシンポジウムでは、その場しのぎの不満や愚痴に終わらないよう、みんなで行動に移すよう促しています。自分たちが考える理想を話し合おうという前向きなもの。そうして共通の理想を見つけ出したら、引き上げたいと思います。賛同してくださる方も多いでしょうし、少しずつ前進していかなくてはならないです。パティシエは人を幸せにできる仕事だから、これからも誰かの役に立ちたいと思います。

 

Mineko Kato’s Column