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健康こそ美の源

21.02.12

東條 汀留Teru Tojyo

マニキュアリスト。
1988年に“爪の時代”を意味するネイルサロン「LONGLEAGE(ロングルアージュ)」を東京・西麻布にオープン。現在は広尾にて営業。サザビーリーグと協業する「TAACOBA(タアコバ)」ブランドを、銀座店ほか全国6店舗で展開。著書に『大人の上品美爪塾』(講談社)がある。

私がネイルサロン「ロングルアージュ」を設立したのは、今から30年以上も前のこと。幼い頃から特別に美にこだわりが強かったというわけではなく、貧しい家をなくすためには何をしたらいいのかと考え「総理大臣になろう」と大きな夢を抱くような子どもだったのです。ネイル技術をロサンゼルスから日本へ伝えたパイオニアである故アン山崎さんに師事し、この仕事をスタートしました。最初は長くやろうとは思っていなかったのですが、やっていくうちに難しいことがわかって逆にやめられなくなりました。人の手は十人十色で同じじゃない。だからいろいろな人に出会えて、奥が深いし、感激してもらえるんだなと。

昔、女性はいわゆる井戸端会議で情報収集していて、美容室はそういう場所でした。代金の代わりに野菜を持っていったり、弟子がいて先生の子どもの面倒を見たり。今は情報はインターネットで調べられますが、それがない時代は直接会って話をするしかなかったですから。

そして美容サロンも専門性を強め、女性スタッフだけというのはエステかネイルサロンに。エステはお客様が眠るくらいにリラックスしていただくのが目的なので、そこまでお話しをしませんが、手だけをお預かりするネイルサロンはお客様といろいろと会話しながら、情報交換できます。そういう美容サロンの原点でもある井戸端会議ができるような店を作りたいというのが「ロングルアージュ」の始まりです。

そして仕事を始めた頃に出会った、爪に問題を抱える複数のお客様が、私のネイル哲学を生み出すきっかけになりました。ある方は10本の爪すべてが真っ黒でした。原因を解明しようとお話を伺うと、寝ている間に爪を噛んでいることがわかり、噛んでも取れない丈夫な付け爪をし、自分の爪が出てくるまで1年ほどかかりましたがきれいに治すことができました。それから深爪がひどくなって、爪が線のようになってしまった男性も。この方は白いところが見えると気になってどんどん切ってしまっていました。だから爪は出ていても皮膚が邪魔して伸びてこない状態に。その方の自爪がある限りは改善してあげたいとサポートさせていただきました。

また、指の先端だけ皮膚の摩擦で火傷のように水ぶくれになる難病の方もいらっしゃいました。改善することは叶わなかったのですが、「自分と同じような難病の方を治すことができる医者になりたいので、患者に不必要な心配をかけずに済むように付け爪してください」というご要望に応えました。基本的に私の店では貼り爪をしないのですが、こういう場合は例外です。

自爪に大きな問題がない人からすると、たかが爪と思うかもしれませんが、このように爪の問題で家から出られなくなったという悩みを持つ方々の話を伺って、実はものすごく精神的な部分を左右するものだと気づきました。この経験、そして改善できた自信から自爪を大事することを基本に考えるようになったのです。

最近も乳がんの方のアピアランスケアで、患者さんを1年間見せてもらいました。爪は髪同様、抗がん剤でダメージを受けるため、剥がれてしまったり、点で押されたように凹凸ができたりします。半年ほどケアを行い、改善したきれいな爪を見て「これでやっと友達に会える」と喜ばれて、役に立てて良かったと思いました。

爪のケアをおしゃれと捉えている方が多いと思いますが、自爪を大切にしようという私のネイルは、歯磨きと同じように生活に根付いたもの。美しく健やかな爪の在り方を、人によって受け止め方の違う感性ではなく理論をもって伝えてきました。だから長く方針を変えずに伝え続けられているのかもしれません。健康な爪を取り戻すことができれば、堂々と人前に出ることもできますし、指輪を一つ買おうかなという前向きな気持ちに繋がっていくのではないかと思います。

 

Teru Tojyo’s Column