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With HANDSOMUSE vol. 4

食べること、
装うこと。

20.02.10

古泉 洋子Hiroko Koizumi

ファッションエディター。
婦人画報社(現ハースト婦人画報社)ほか出版社に勤務。さまざまな雑誌編集部に在籍しファッション企画を担当後、フリーランスに。
インターナショナルなモード誌から女性誌まで幅広いターゲットの雑誌で、スタイリングも担うエディターとして、また雑誌のファッション部門全体のエディトリアルディレクション、カタログのヴィジュアル制作も手がける。

食べること、装うこと。

まごうことなく、私は無類の食いしん坊です。
一日三食、その一食とて無駄にしたくない、願わくば100%超えの満足を得たいという貪欲さです。
ファッションメディアを主戦場にしている私がこう書くと「どれだけ高級な食事をしているのか?」、
はたまた「さぞ洗練されたレストランへ出かけているのだろう……」
などと思われる方もいるかもしれません。
しかしながら私を満たしてくれる基準はそういったおしゃれ度や華やかさではなく、その時の自分の気分にいかにマッチしたものを食べることができたか、あくまで “心”が満足したかどうかが大きなウエイトを占めています。
実際、朝食には全国展開しているポピュラーなパン屋の、フランスパン生地を使った山型食パンをカリッと焼き上げ、そこにバターをたっぷり塗ったトーストがあれば至極幸せだし、さっぱりしたい日の夕食には、山手の下町で素材にこだわり手作りしている木綿豆腐さえあれば疲れも癒えます。どちらも取り立てて特別なものでも、高級品でもない、私にとっては近所で手に入る日常の一品です。

満たすのは空腹ではなく心

発表会の取材や、撮影アイテムの下見などで外回りする日のランチへの執着は、
ご存知「孤独のグルメ」の井之頭五郎並みです。仕事のときは基本一人行動なので、食事にとれる時間、空腹具合、ディナーの予定、価格、現在地、その条件下で「私は今、何を食べたいのか」と脳内で自分との葛藤を繰り返し、絶対にハズさないと確信を持ったうえで(!)お店とメニューを選定。まるでラジオの周波数をチューニングするように、感覚を研ぎ澄ましフォーカスを絞り込んでいきます。
気分とチョイスがぴったりと一致した時の幸福感といったら! それがその日の午後から夜までの仕事の集中力を保つ秘訣です。
この習性は東京ではもちろん、コレクション取材で海外に出かけるときも発揮されます。
年2回行われるファッションウィークのショーはだいたい1時間刻みに行われるので、30分あるかないかの合間にSNSやらインターネットで情報を収集し、移動ルートのなかで、さほど時間がかからず味もハズさない店とメニューを探す、勘頼みの冒険を楽しみます。昨年9.11以来何十年ぶりに訪れたNYでは、ヘブンズ キッチンというカフェでメロンのスープとナスのフライドライスのワンプレートディッシュという、東京では進んで食べることはないヴィーガン系のランチを食し、新鮮な驚きと浄化された気分に。
ひととき、ヘルシーな今どきのニューヨーカーの疑似体験ができたのは嬉しいおまけです。

ディナーは大人の遠足

仕事仲間とのディナーを仕切ることとなれば、集うメンバーの顔を思い浮かべ、彼女たちの好み、バジェット、地の利、話題性などを総合的に考えてレストランを選びます。
編集者という職業病ともいえますが、時には人気女優が被写体になるような仕事もあり、10人ほどの撮影チームが最後まで気持ち良く仕事をしてもらえるか、そんな気遣いを長く行ってきたので自然とそういう思考になります。
最近は東京の普段はあまり行かないような街にある穴場の店に出かけることも。洗練された高級店ではなく、どこか温かみのある気取らぬレストランがお気に入り。こういう日はいつもより早く仕事を切り上げて、大人の遠足気分で集合します。

ジュエリーで仕上げる“一人遊び”

こんなふうに“食べる”という、ある意味人間にとって義務でもある行為を日々楽しむこと。
それは “装う”ということにも通じます。ある年齢になると、否が応でも若い頃の見た目とは違ってくることで自分への興味が薄れ、さらに仕事はもちろん家庭や子育てにも労力や時間を割かねばならず、徹底的に自分と向き合うことが億劫にもなります。
けれど現時点のあるがままを見極め「自分がどんな女性でありたいのか」と構想を描き、そこにチューニングを合わせていくことが大切です。
まず瞑想するかのように、自分の気分を問いかけてみましょう。
そのうえで今日の予定や会う人の顔を思い浮かべ、その日のコーディネートを決めていきます。大人になったら、服は欠点を巧みにカバーしてくれる上質シンプルなデザインでいいのです。そこにどんなジュエリーを添わせるのか大きな鍵。
すこぶる元気なら、逆に引き算し、凜としたダイヤモンドのネックレスをさりげなく。逆に少しパワーダウンしているなら、ブルーサファイアの力を借りてもいいかもしれません。そんなふうに着こなしプランを考えることもまた、食べることと同じく自分軸で満喫できる“一人遊び”。きっと大人の人生を彩り豊かにしてくれるはずです。
幸いにも今は、おしゃれにトレンドやルールといった決まりごとはありません。自由を謳歌し、自分らしく楽しんでいる人こそ素敵に見える時代です。

 

Hiroko Koizumi’s Column