思えばちょうど10年前の11月、人生で一番のチャンスと思えた出来事があった。
それは、私の大きな夢であった海外で働くということが現実になりそうだったのだ。
大きな会社ではなかったが、内定も決まり、英語圏の国で働こうと試みた私。
ほぼすべての条件がそろっているかのように見えたのに、私は結局そのチャンスを手にすることができなかった。
いや、本当の気持ちとして行きたくなかったのだ。
なぜなら、心の奥底で人並?に家庭を持ちたいという気持ちがあったから、そして海外に一人で住むことは初めてではなかったが、どっちに転んだとしても、大きく自分の人生が変わることに恐怖を覚えたからである。
結局、私は日本で引き続き派遣社員として働くことを再度選び、自分の夢を自ら手放した。
その選択もまた葛藤であった。
今までここまで人生の選択に迷いが生じたことはなかった。
自分の納得した上で選んだ仕事内容ではあったが、転職したからと言って、当然何もかもがうまくいくわけでもなく、仕事や人間関係に慣れるにも時間がかかったり、いわゆる派遣切りのような目にも遭いそうになったが、なんとか5年弱働くことが
できた。
そんな生活を送りながら、いわゆる結婚に結び付くような相手を探すことも怠らなかった。
いわゆる『婚活』だろうか。
日常生活でくたくたになっているうえに、幸せをつかむための努力もしなければならず、たとえ休日であっても、休んでいる暇はないように思えた。
海外勤務に迷いが生じた頃から10年近くが経ち、その時のチャンスが人生最大のものだと思っていたけど、今は違った形で慌ただしくも幸せな日々を送っている。
婚活が数年前に実り、結婚をし、昨年息子が生まれた。
長らく夫と共に願っていた子宝にやっと恵まれ、お世話は大変だが、満たされた日々を送っている。
紆余曲折を経て、やっと平凡な幸せに足を踏み入れ、今はコロナ渦ながらも、近所の子育て支援場に足を運び、ママ友作りに励む日々。
いつかまた、職場復帰を考えつつも、息子とささやかな幸せを感じながら過ごしている。彼の笑顔と寝顔が何よりも私を癒してくれる時間。
私の生まれ育った時とは明らかに大きく違う、息子の育つ時代背景。
親としては当然まだまだ未熟、手探りながらも、彼の幸せを後押しできる母親になりたいと日々思う。